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最高裁判所第三小法廷 昭和51年(あ)661号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人柳瀬宏の上告趣意は、憲法一三条、三九条前段、後段、九七条、九九条違反をいうが、実質はすべて単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、主文のとおり決定する。

この決定は、裁判官天野武一、同服部高顕の各意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官天野武一の意見は、次のとおりである。

上告趣意が問題としている原判決における併合罪の判断に関する私の見解は、以下に述べるとおりである。原判決の維持する第一審判決の認定事実によると、被告人は、覚せい剤取締法上輸入行為を禁止されており、かつ、関税定率法上の有税品であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤を隠匿携帯して空路本邦に搬入して税関を通過する際これを発見された、というのであって、被告人の右行為の全動態は、自然的観察のもとにおける社会的見解上明らかに事象を同じくする一個の覚せい剤輸入行為として評価することができ、それが覚せい剤取締法四一条一項一号、二項、一三条及び関税法一一〇条三項、一項一号前段の各罪に同時に該当するのであるから、右両罪は刑法五四条一項前段の観察的競合の関係にあると解するのが相当である。詳細は、昭和四六年(あ)第一五九〇号同四九年五月二九日大法廷判決・刑集二八巻四号一五一頁、昭和五〇年(あ)第一五号同五一年九月二二日大法廷判決における私の各補足意見及び昭和四九年(あ)第一四三一号同年一二月二〇日第三小法廷決定・裁判集刑事一九四号四八七頁における私の意見で述べたとおりである。そうすると、原判決は、同一の日時、場所における同一の覚せい剤輸入の機会にされた覚せい剤取締法違反の罪と関税法違反の罪との罪数に関し、これらを併合罪の関係にあると判断した点において、法令の解釈適用を誤った違法があるが、原判決の維持する第一審判決の宣告刑は相当と認められるから、原判決を破棄しなくても未だ著しく正義に反するものとは認められない。

よって、私は、本件上告を棄却することとした多数意見に対し、その結論についてのみ同調するのである。

裁判官服部高顕の意見は、次のとおりである。

私は、裁判官天野武一の意見に同調する。

(裁判長裁判官 環 昌一 裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己 裁判官 服部高顕)

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